2012年05月16日 10:38 am JST
三菱自動車工業は昨年度、テレビ通販大手のジャパネットたかた(長崎県佐世保市)を通じて電気自動車(EV)を紹介販売する新たな取り組みを実施した。
ジャパネットの番組でEVの商品説明を行い、コールセンターに問い合せた顧客を三菱自動車や販売会社に紹介するというものだが、3回の放送で、300件の問い合わせを販売会社につなぎ、約70台を成約したという。
EVは新しい商品なので、既存の枠組みにとらわれずに新たな試みを模索していくのが大事━━。協業の目的について、このような説明もあったが、三菱自動車の幹部によると、真の狙いは販売そのものではなく、ジャパネットの高田明社長のトークによって「商品の本当の良さを分かりやすく伝えてもらう」ということだった。
テレビショッピングに登場する高田社長は、商品を購入することで生活がどのように変化し、便利になるかを語る。例えば、連写機能付きのデジタルカメラを紹介する場合。子どものふとした表情はかわいいけれど、その表情を見てからカメラを向けても、先ほど見せた表情はもうそこにはない。そこで役立つのがこの連写機能、好機を逃しませんよ、というわけだ。
ジャパネットは、三菱自動車のEVを取り扱うことになった際、EVの機能的な価値を伝えるだけでなく、その先にある新しいライフスタイルがもたらす「楽しさ」や「感動」を届けたい、と表明していた。先のデジタルカメラにしてもそうだが、消費者の購買意欲を引き出すには、商品を得た後に待っている生活に対し「ワクワク感」を抱かせることが必要だといえそうだ。
こうした中、三菱自動車は先月、今年度中に軽トラックのEVを発売することを明らかにした。
地方の農家には自宅と農場を軽トラックで行き来する人もいるが、これまで使っていたガソリンスタンドが経営悪化で閉まり、自宅から遠く離れた街中のスタンドまで給油にでかけなければならなくなったケースもあると聞く。そうした人にとって、軽トラックEVの発売は朗報だ。
自宅で充電できるため、給油に行く手間が省ける。三菱自動車の幹部はEVについて「地方のガソリンスタンド不足への対応策にもなる」と指摘していたが、これは、EVが生活を変化させる事例の一つといえるだろう。
ただ、政府がEVにどんな優遇を与えるかによって、普及度合いは変わるとの見方もある。
北欧のノルウェーでは、充電設備の整備が進み、EV購入者に対する優遇制度が充実している。市内の公共駐車場が無料であるほか、朝夕のラッシュ時には空いているバスレーンを走ることができ、通勤時間に1時間かかるところを15分で到着できるらしい。
三菱自動車は昨年1月、ノルウェーにEVの「アイミーブ」を投入したが、11年のガソリン車も含めた小型車クラスで累計販売台数1位を獲得。市場ニーズに合う車として受け入れられているという。
今後、日本をはじめ、世界でEVを普及させていくには、「環境にやさしい」という機能面もさることながら、EVを購入することで生活がどのように変わるのか、といった分かりやすいメッセージを打ち出していくことも重要なポイントになりそうだ。
(写真/ロイター)
2012年05月10日 12:34 pm JST
日銀法改正に向けた動きが与野党に広がっている。
歴史的な円高、長期にわたるデフレからの脱却に向けた日銀の対応が手ぬるいとして、政府が物価目標を決め日銀に指示し、目標が達成できなかった場合に説明責任を求める内容だ。
しかし、問題は、達成度合いが著しく低い場合に、総裁や副総裁、審議委員に責任を取らせる解任規定を盛り込んでいること。中央銀行の独立性を脅かし、金利上昇の副作用も招きかねない議論に、民主党執行部は沈静化に動き出した。
前原誠司政調会長は9日、ロイターのインタビューで、日銀法改正について「今、具体的なテーマとして想定しているわけではない」と明言。法改正で独立性が損なわれることの「副作用が大きい」と警告した。総裁解任権を盾にした日銀への政治介入が過度な金融緩和を誘発しかねないからだ。
ひとたび中央銀行の信認が崩れれば、金利上昇となって跳ね返ってくる。こうした金利上昇は大量の国債を保有する金融機関に致命的な打撃を与え、実体経済下押しの引き金になりかねない。
前原氏は、中央銀行の独立性が担保されるのは「政治の道具として好きに使われないようにする」ためだとして、「日銀法を改正し独立性を緩めることは、政治の道具として使える余地が大きくなる。当然マイナスが出てくる。日本にとって、一番、身近な副作用は金利上昇だ」と憂慮する。
戦時立法だった旧日銀法の改正論議に深くかかわった藤井裕久最高顧問も、党内の日銀法改正論は「論外」と切り捨てた。総裁解任権があった旧日銀法に戻ることの弊害は「100年の歴史が教えている」と述べ、総裁解任権を盛り込んだ日銀法改正を行えば「世界の笑いものになる」と苦言を呈している。
これに対して改正推進派は「本来は財政政策と金融政策を合わせて経済政策を担う。オーソドックスで世界標準の政策だ」(小沢鋭仁元環境相)と改正案の妥当性を強調した。
みんなの党は4月10日に改正案を国会に提出、自民党も財務金融部会で検討を開始した。民主党の有志議員で作る「円高・欧州危機等対応研究会(会長:小沢鋭仁元環境相)」は、5月にも改正案をまとめる方向で作業を進めている。
だが、日銀法改正までちらつかせ、日銀を揺さぶることにもう終止符を打ってはどうだろうか。
日銀は2月以降、3月、4月とたて続けて追加緩和を断行した。金融政策は万能薬ではない。政治に問われているのは、日銀が作り出した「時間」を最大限生かし、規制緩和などを通じて実体経済を活性化する政策を推進していくことではないだろうか。
(写真/ロイター)
2012年05月08日 10:46 am JST
宮城県石巻市のリアス式海岸沿いの町、雄勝(おがつ)━━。東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けたこの小さな町では、地元漁師を中心にボランティアも巻き込みながら、再生への取り組みが進められている。
推進役の一人は元商社マンで起業家の立花貴さんだ。
昨夏に雄勝の仲間と設立した水産加工販売会社「OHガッツ(オーガッツ)」は、漁業や復興のありかたに一石を投じたとして、昨年ニューズウィーク日本版の「日本を救う中小企業100」に選出された。
立花さんは家族を残し雄勝に単身転居。自らも漁師となり、多くのボランティアを東京から毎週現地に送迎する傍ら、ブログや著書で情報発信を続ける。
この他にも、被災した子供たちにケーキを届けるSweet Treat311代表、社団法人東の食の会理事、社団法人3.11震災孤児遺児文化スポーツ支援機構理事も兼務。石巻市立雄勝中学生による国内外での太鼓演奏も応援してきた。再生にかけるそのエネルギーはどこから湧いてくるのか、都内で話を聞いた。
──石巻市の雄勝での復興の取り組み、漁業出身者ではないのに、なぜそこまでできるのか。
「被災地だけの問題ではなく、日本の問題だと感じて取り組んでいるからだと思う。高齢化・過疎化・少子化は以前からある問題だが、大震災によって現地ではそれが一気に進み、何十年か後の日本の姿を垣間見てしまった気がする。今やらなければと思う」
──水産加工販売会社「オーガッツ」について。
「カキやホタテといった商品の予約販売を通じ、生産者はただ売るのではなく、消費者には現地に直接関わってもらう仕組みだ。沢山の人が来訪すれば町が成り立つ。高齢化・過疎・少子化からの移行期間を、都市圏の方々が直接応援してくれるような新しいモデルケースを目指している」
──首都圏から送迎するボランティアは。
「これまで750人ほどに雄勝を見てもらっている。そのうち1割は霞が関の若手官僚たち。現地をみてもらうことで、肌感覚を持って行政に携わってもらえればと思っている」
──行政の対応で感じるジレンマは。
「教育や漁業など制度面で気になる部分はある。制度を無理に変えるよりも良い事例を残し、事例として横展開して、制度化せざるをえないような状況を作っていきたい。必要な方にはノウハウなどをしっかり伝えていく」
──ビジネスを行うにあたり、周囲からの信頼はどのように獲得しているのか。
「信頼とは獲得するものではなく、与えるものだと思う。そしてお互いが思いあうものだと思っている」
──震災を経て世の中は落ち着いてきているが。
「今まではできなかったが、これからは何かをしたいという問い合わせも多い。そうした人には、まずは現地を一度見てほしい。そして、ボランティアをするには、親への感謝を含め個人として自立していることが大切だと思う」
(写真/ロイター)