前回取り上げた「子ども手当て」に関して、読者の皆様から貴重な意見を数多く頂き、民主党のマニフェストに対する関心が改めて高いと感じた。そこで、続編のようになるが、筆者からもう1つ。今度は「最低時給1000円」について問いかけてみたい。
一部報道によると、民主党は月内にも公表するマニフェストで最低賃金を全国平均で時給1000円とする数値目標を明記するという。詳細が明らかになっていないので、一昨年に行われた参議院選挙の前に明らかにされた最低賃金法の民主党案をみると、各地域の地域最低賃金は全国平均で1000円を目指すと記されている。
ただ、全国最低賃金については約800円を想定しているほか、施行後3年間で段階的に引き上げると明記されている点から、急に最低時給が1000円に上がるわけではないようだ。
筆者は学生時代、お金がないために学業を疎かにしてアルバイトを一生懸命やったクチだが、その時「時給が1000円あれば幸せな気分になれる」と思ったもの。それが実現するわけで、低賃金で働くアルバイト・パート従業員にとっては朗報だろう。しかし、雇う側にしてみれば、当然のことながらコストを圧迫するネガティブな要因となる。
実際、企業にヒアリングしてみると懸念する声が少なくない。外食産業では、人件費のアップを価格に転嫁する可能性が指摘される一方、製造業では国際競争力の観点から海外移転が加速し、国内産業の空洞化を引き起こすと心配する向きもいた。最低時給1000円は非現実的との指摘もある。
自動車産業のメッカである中京地区で部品を製造するある中小企業のオーナーは、最低時給が1000円になったら「工場をやめるしかない」と明かす。ちなみに、今度の総選挙については「民主党が政権を獲り、日本は変わった方がいい」としている。
このオーナーによると、中京地区で大手自動車メーカーの下請け業者は、時給800─850円で雇っているところが多いという。「ほとんどの工場が不景気で稼働率も落ち窮している。人件費の分を大手が単価に上乗せしてくれることなど、国際競争力を考えればありえず、時給1000円などとても払えない」──。
「子ども手当て」は子育てをしていない家庭から子育てをしている家庭へ所得移転させ、「最低時給1000円」は雇い主である企業が労働分配率を変える格好でそれぞれ行われる。「子ども手当て」が子育て家庭を、「最低時給1000円」は低賃金で働く労働者を、それぞれ支援する趣旨であるのは言うまでもない。
しかし、両者には決定的に違う点がある。「子ども手当て」は財政が絡んでくるのに対し、「最低時給1000円」に財政は介在しない。
時給引き上げのサポート体制を整えるとしても、保証枠拡大など融資スタイルではなく財政がバックアップし補助金でも支給しない限り、この「低賃金で働く人の生活を安定させるための支援」は企業に頼り切る対策とみることができる。「苦しい時は融資で給与を支払ったこともあった。これ以上、どうすればいいのか」──と別の中小企業の社長と話す。
企業にしてみれば「法制化されると従わざるを得ない」(ある外食産業の関係者)だろう。株主の要求に応えるべく企業は利益を上げるため、労務費の増加を何らかの形で吸収に動く。その結果、何が起きるのか──。この政策の意義、少し考えてみる必要があるかもしれない。
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(写真/ロイター)