ロイターブログ

討論×闘論

ニュースに一言!

2009年05月20日

日米欧の物価情勢とインフレターゲット

Posted by: 志田義寧

FINANCIAL/JAPAN1─3月期の実質国内総生産(GDP)が戦後最悪の年率換算マイナス15.2%となった。エコノミストの間では経済全体の供給力と総需要の乖離(かいり)を表す需給ギャップはマイナス8─9%まで広がっているとの見方が多く、物価に強い下落圧力が働くのは確実な情勢だ。

日銀は日本の潜在成長率について、1%前後まで低下しているとの見方を示している。これから需給ギャップが解消されるまでの期間を計算すると、年平均3%で成長したとしても、需給ギャップは毎年2%しか縮小せず、完全に解消するまでには4─5年かかる。気の遠くなるような時間だ。

もちろん、これはあくまで単純な仮定から導き出された数字に過ぎず、この通りになるわけではない。例えば、米国の過剰消費に支えられて作った生産設備の一部はすでに「余剰設備」となっており、遅かれ早かれ生産能力にはカウントされなくなるだろう。そうなれば、潜在成長率はさらに低下し、需給ギャップ解消までの時間はより短くなる。

ただ、ここで重要なのは、いずれにせよ巨大な需給ギャップが物価の先行きに重くのしかかるという事実だ。実際、日銀が予測する消費者物価指数(除く生鮮食品)は2009年度が前年比マイナス1.5%、2010年度が同マイナス1.0%と、いずれも政策委員が中長期的にみて物価が安定していると考える物価上昇率「0─2%程度」を下回っている。

こうした状況は各国とも似たり寄ったりで、米連邦準備理事会(FRB)はPCEコアインフレ率で1.7─2.0%(longer‐term projectionの大勢見通し)、欧州中央銀行(ECB)はHICP総合で2%をやや下回る水準(物価安定の定義)、イングランド銀行(BOE)はCPI総合で2%をそれぞれ目標(国により定義が異なるが、敢えて目標とする)としているが、いずれも実際の見通しはこれを下回る。

これは何を意味しているのか──。例えば、BOEはインフレターゲットを採用しているが、今月発表されたインフレ報告によると、CPIインフレ率は中期的にもターゲットを達成できないという厳しい見通しが示されている。各国とも、これだけ大きなショックが生じてしまうと、マクロ政策だけで物価を引き上げるのは難しく、ある程度時間をかけて調整していくしかないとの認識のようだ。

過去、デフレ懸念が台頭するたびにインフレターゲット論が再燃してきた。しかし、足元の状況だけをみると、インフレターゲット採用の有無にかかわらず、需給ギャップを前に各国が描く物価トレンドはそう大きく変わらない。

こうした状況から、日銀内からはインフレターゲット論をめぐる長く続いた議論には終止符が打たれた、との声も聞こえてくる。果たしてそうなのか──。

(写真/ロイター)

2009年04月09日

国債発行増で、長期金利は上がるのか

Posted by: 田巻一彦

MARKETS-GLOBAL/財政支出が15兆円規模の追加経済対策が固まった。20兆円程度とみられる需給ギャップのかなりの部分を埋め合わせる規模だ。

その財源は、いわゆる埋蔵金や予備費を除き、10兆円を超える規模の赤字国債、建設国債の発行で賄われる見通しだ。

マーケットの一部には、この先の長期金利上昇を懸念する声が浮上している。「新規国債発行額が7─8兆円程度との見方が多かっただけに、10兆円に乗せる規模の国債発行計画は、長期金利を押し上げる要因になる」(大手銀関係者)との声が代表的だ。

一方で、景気の先行きが不透明な中で「長期金利が2%を目指して上昇することは考えにくい」(別の大手銀関係者)という見通しも出ている。

だが、冒頭の大手銀関係者は「公的年金や郵貯・簡保などこれまで国債を積極的に購入してきたセクターが、それぞれの資金ポジションの関係から、大きな買い手の座から降りることが確実視されている。大幅な国債発行増がなくても、長期金利は上がりやすい需給環境になっている」と指摘する。

また、外資系証券の関係者の1人は「日本の経常黒字額が、減少傾向を明確にしている。この傾向が継続するなら、国内勢の投資余力が中長期的には低下することになるので、これまで以上に海外勢の動向が、長期金利を左右する市場環境になるだろう」との見通しを示している。

長期金利が明確に上がり始めたら、日銀に国債買い切り増を求める圧力が政府・与党サイドから強まると、多くの市場関係者は予想している。

果たして日本の長期金利は、2%を目指して上がり始めることになるのだろうか。

(写真/ロイター)

2009年03月05日

人々の物価観は変化するか?

Posted by: 志田義寧

昨年7、8月に前年比2.4%だった全国消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率が、わずか半年後の1月に前年比横ばいまで低下し、いよいよマイナス圏入りが目前に迫った。もっとも、現在の物価上昇率の低下は石油製品の値下がりが主因で、これまでの低下に限ってみれば、日本経済にとってはむしろプラス面が大きい。

問題はこの先だ。日本経済は2009年度まで2年連続のマイナス成長が避けられないとみられており、これからは国際商品市況の下落に、日本経済全体の需要不足による価格下落圧力が加わる。内閣府の試算によると、総需要と供給力の差を示す「需給ギャップ」は昨年10─12月期にマイナス4.3%となり、同7─9月期のマイナス0.7%から供給超過の程度が大幅に拡大した。

JAPAN-RETAILこうした状況でもっとも気をつけないといけないのが、企業や家計の物価観を表わす「インフレ予想」の動きだ。

インフレ予想の変化は、消費や投資行動などを通じて実体経済に影響を与えるだけでなく、物価そのものにも跳ね返ってきて、その動きを加速させる。その意味で、インフレ予想を見誤れ ば、金融政策のかじ取りも間違える。

日銀は現時点でインフレ予想が変化したとはみていないが、決して楽観しているわけではない。ある幹部は、バブル崩壊後に3回あった景気後退期(今回を除く)で、バブル崩壊直後の1回は明らかにインフレ予想が低下したとの見方を示し、この背後には、高成長から低成長への移行や超円高、規制緩和の流れなどによる人々の世界観の変化があった、と指摘する。

つまり、1998年や2001年と同じような景気後退であればインフレ予想は動かずに、いずれ物価は持ち直す。しかし、その背後に世界観が変わるような構造変化があるのであれば、インフレ予想に影響を与え、本格的なデフレスパイラルに陥る可能性も否定できないということだ。

今後を見通す上で重要なポイントの1つに「賃金」の動きがある。構造変化と賃金は切っても切れない関係にあり、例えば、ワークシェアリングが本格導入されれば、インフレ予想への影響は避けられないとみる専門家が多い。

「100年に1度」や「戦後最悪」といった文字が躍る今回の経済危機。これだけをみれば、インフレ予想を動かしたバブル崩壊直後よりもマグニチュードが大きいと言える。果たして今回の景気後退は、世界観が変わるような構造変化を伴うのか──。

(写真/ロイター)