日米欧の物価情勢とインフレターゲット
1─3月期の実質国内総生産(GDP)が戦後最悪の年率換算マイナス15.2%となった。エコノミストの間では経済全体の供給力と総需要の乖離(かいり)を表す需給ギャップはマイナス8─9%まで広がっているとの見方が多く、物価に強い下落圧力が働くのは確実な情勢だ。
日銀は日本の潜在成長率について、1%前後まで低下しているとの見方を示している。これから需給ギャップが解消されるまでの期間を計算すると、年平均3%で成長したとしても、需給ギャップは毎年2%しか縮小せず、完全に解消するまでには4─5年かかる。気の遠くなるような時間だ。
もちろん、これはあくまで単純な仮定から導き出された数字に過ぎず、この通りになるわけではない。例えば、米国の過剰消費に支えられて作った生産設備の一部はすでに「余剰設備」となっており、遅かれ早かれ生産能力にはカウントされなくなるだろう。そうなれば、潜在成長率はさらに低下し、需給ギャップ解消までの時間はより短くなる。
ただ、ここで重要なのは、いずれにせよ巨大な需給ギャップが物価の先行きに重くのしかかるという事実だ。実際、日銀が予測する消費者物価指数(除く生鮮食品)は2009年度が前年比マイナス1.5%、2010年度が同マイナス1.0%と、いずれも政策委員が中長期的にみて物価が安定していると考える物価上昇率「0─2%程度」を下回っている。
こうした状況は各国とも似たり寄ったりで、米連邦準備理事会(FRB)はPCEコアインフレ率で1.7─2.0%(longer‐term projectionの大勢見通し)、欧州中央銀行(ECB)はHICP総合で2%をやや下回る水準(物価安定の定義)、イングランド銀行(BOE)はCPI総合で2%をそれぞれ目標(国により定義が異なるが、敢えて目標とする)としているが、いずれも実際の見通しはこれを下回る。
これは何を意味しているのか──。例えば、BOEはインフレターゲットを採用しているが、今月発表されたインフレ報告によると、CPIインフレ率は中期的にもターゲットを達成できないという厳しい見通しが示されている。各国とも、これだけ大きなショックが生じてしまうと、マクロ政策だけで物価を引き上げるのは難しく、ある程度時間をかけて調整していくしかないとの認識のようだ。
過去、デフレ懸念が台頭するたびにインフレターゲット論が再燃してきた。しかし、足元の状況だけをみると、インフレターゲット採用の有無にかかわらず、需給ギャップを前に各国が描く物価トレンドはそう大きく変わらない。
こうした状況から、日銀内からはインフレターゲット論をめぐる長く続いた議論には終止符が打たれた、との声も聞こえてくる。果たしてそうなのか──。
(写真/ロイター)

財政支出が15兆円規模の追加経済対策が固まった