ロイターブログ

討論×闘論

ニュースに一言!

2009年11月02日

白川総裁が指摘した経済現象 

Posted by: 田巻一彦

USA-FED/10月30日の日銀金融政策決定会合やその後の白川方明総裁の会見で、国内外のメディアの多くはCPや社債を対象にしたオペの打ち切りや、デフレと超金融緩和策の長期化の見通しに多く言及したが、ロイターの速報以外では全く触れられていない部分があった。

白川総裁は、世界経済の先行きに関する質問に答えた中で「先進国の金融緩和で供給された資金やリスクテークの能力が、(中略)新興国の経済を押し上げている」「したがって先進国と新興国を結ぶ1つの大きなリンクは、先進国の金融緩和が、染み出したという言葉がいいのか悪いのかわからないが、影響していることだと思う」と指摘した。

先進国の金融緩和が、新興国の経済上振れに影響を与えているとの指摘だ。

同じような質問に対し、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、10月19日に米カリフォルニア州のサンタバーバラで、先進国の金融緩和効果が新興国に波及したかどうかには言及せず、アジアで発生する可能性のある資産バブルについて懸念を表明。過剰な貯蓄を抑制し、消費を促進するべきであると述べていた。

他の中銀首脳も、この問題のメカニズムに関し、明確に指摘したことは、今までのところない。

一国の金融政策が、マネーのグローバル化に伴って、その効果が自国内で出ないうちに海外で、その当局の想定とは異なって影響が出る可能性があるとの見方は「一部の当局者の中で、水面下で認識されている」(国際金融筋)という。

その認識をさらに推し進めていけば、各国ごとに中銀が別々の金融政策を取った場合、政策効果が意図しない場所で、意図しない形で出てくるという指摘も、国際金融を専門に見ている人たちの中では、問題として意識され始めている。

しかし、この問題を解決するような新しいシステムを構築しようとの動きは全くなく、今週末に開催されるG20でも、そうした視点にたったアクションが取られる可能性は今のところゼロだ。

だが、白川総裁が率直に指摘したように、米、欧、日など先進国の中銀が実施した金融の超緩和策の効果が「染み出し」というかたちで新興国に出てきたことは、間違いないだろう。この現象を正直に認め、先行きのマクロ政策を議論することはできないのだろうか。

白川総裁の指摘が、主要な中銀やG20などの場で、積極的に議論されるような展開を望みたいが、現実離れとのおしかりを受けるだろうか。

(写真/ロイター)

2009年09月15日

金融業は自信回復するのか

Posted by: 布施太郎

JAPAN/「銀行を辞めることにした。実業の世界で一からやり直したい」――。先週の秋晴れの夕方、メガバンクの中堅幹部から話があるからと言われて出向いたら、突然打ち明けられた。衝撃だった。経営中枢にも近く、首脳陣からの信頼も厚かった。

これから先の銀行員生活、頭取とまでは言わないが役員になる可能性だって十分に残っている。何よりも銀行に対して、金融業に対して人一倍の情熱を持っていた。「いい仕事をするためのいい組織を作るためなら、『私』なんていつでも捨てられる」。そんなことを口癖のように言っていた彼が、銀行を去る。「銀行に不満があるわけではない。ただ、実業の世界で自分の使命を果たしたい」と彼は繰り返した。

金融危機は関係ない、と彼は言う。しかし、リーマン・ショックから1年。金融業に携わる人たちが自信喪失に陥っているように見える。当たり前かもしれない。G20では金融機関に対する規制強化の話はもちろん、経営者の報酬制限さえ当然のように議題に上る時代だ。「銀行員はもはや貪欲(どんよく)の代名詞だ」と、ある外資系金融機関幹部は自嘲(ちょう)する。

ウォール街の金融機関のビジネスモデルとは一線を画し、1年前は世界の「ラスト・リゾート」としての期待も高まった邦銀でさえ、国際的な銀行規制の奔流に飲み込まれ、自己資本不足が取り沙汰される始末だ。投資銀行から商業銀行への業態転換を図った金融機関の業績は好調と伝えられるものの「持続的に続くとは思えない」と、内部にいる人たちも打ち明ける。

しかし、金融機関とそこで働く人たちが輝いていた時代が間違いなくあった。それは、天文学的な給料が稼げるという意味ではない。今回の金融危機の発端を作ったサブプライム・ローンでさえ、そもそもは信用度が低い人たちでもマイホームを持てるようにするために金融イノベーションが生み出した福音だったはずだ。

世の中でマネーを必要としているところにマネーを還流させる──。金融業の存在価値は今も変わっていない。そのための仕組み作りに知恵を絞り、奮闘している人もまだ残っている。

「お手軽に稼げる方向に走っちゃ駄目だよね」。ある銀行の役員は自らを戒めるようにこう言った。欲にまみれた金融界で、こんなことを言うのは、単なるロマンチシズムかもしれない。しかし、ここから金融業の復権が始まるのだと信じたい。

「金融危機特集」で最新関連ニュースをご覧いただけます)

 (写真/ロイター)

2009年09月07日

優先株と自己資本比率

Posted by: 田巻一彦

G20/G20財務相・中央銀行総裁会議がロンドンで4─5日に行われ声明が発表された。国内では、金融機関の報酬制限検討に目が向きがちだったが、今後の展開に大きな影響を与えそうなテーマもあった。銀行の資本積み増しと質の向上の問題だ。

規制に関する声明では、景気回復が確実になった段階で、資本の積み増しと質の向上を求めると明記された

いつから、どの程度自己資本比率の下限を引き上げるのか、について、詳細は明記されなかった。

その点を指摘して「日本の銀行に具体的な影響が出るのはまだ、かなり先になるだろう」(大手銀関係者)と楽観視している声が、国内の銀行関係者から出ている。

しかし、本当に楽観できるのだろうか。

質の引き上げに関しては、邦銀がこれまで大量に発行してきた優先株による資本調達は、いわゆるコアTier1(中核的自己資本)に含めない方向が国際的に大きな声になっていた。

そして、6日夜になって国際決済銀行(BIS)総裁会議は、新規制について合意。Tier1の大部分を普通株と内部留保にすることや、自己資本のすべての項目を完全に開示することが盛り込まれた。

次期首相になることが確実な鳩山由紀夫・民主党代表も4日に、自己資本比率規制に関し「普通株か優先株かという議論になっている」と述べるとともに「何が議論の本質なのか、しっかりと考えていかねばならない」と語り、この問題が次期政権にとっても、重要な政策課題になるとの認識をにじませていた。

実施時期は、景気回復後になるとはいえ、優先株を大量に発行している銀行は、新たな資本調達を迫られることになる。できない場合は、公的資本の注入の可能性が、新政権の政策スタンス次第では出てくる可能性も残されている。

表面上の小康状態とは裏腹に、一部の邦銀には強い向かい風が吹く予兆が出てきている。

(写真/ロイター)